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(2003/06/25) 最低資本金規制の特例

 「資本金1円で会社設立!」…最近こんな見出しを新聞・書籍・インターネットなどで見かけるようになりました。

 日本では株式会社・有限会社を設立するには「最低資本金」に関する決まりがあります。株式会社なら1,000万円、有限会社なら300万円が必要です。(商法184条ノ4,有限会社法9条)
 資本金は会社の基本財産であり、いざというときの債権者保護のために最低限これだけは必要だろうということでこうした基準が設けられているわけですが、このことがベンチャー精神旺盛な人たちの起業の足枷になっているとも言えます。
 これを解消すべく、特例的に基準額未満の資本金で会社を設立できる制度ができました。「中小企業挑戦支援法」と呼ばれる法律です。(平成15年2月1日施行)

【参考】書籍等でご覧になった方もいると思いますが、最低資本金規制を逃れるためにわざわざ規制のない(または日本より基準額が低い)外国で会社を設立(もしくは休眠会社を買取り)して、その日本法人という形で登記するという離れ業もありますが、手続は全て外国語なので代行業者に依頼するのが普通で、当然ながら手数料がかかります。

 この特例制度を使えば理論的には資本金1円でも会社の設立が可能です。しかし、最低資本金規制が無くなったわけではありません。あくまで創業当初にのみ認められる特例であり、最終的には基準額を満たさなければなりません。また、特例期間中は経済産業省の監督下に置かれ、財務内容の報告義務があります。制度の概要は以下のとおりです。

 他にも細かい要件があります。詳しくは経済産業省HPの解説をご覧ください。


 さて、特例により手続き上は資本金のハードルは低くなりましたが、安易に会社を設立することはお勧めできません。

 事業を始めれば何かと物いりです。一部のサービス業のように店舗も設備投資も在庫も不要という場合は別として、事業所の家賃・光熱費・通信費、机・エアコン・パソコン等の備品、従業員の賃金、etc.、お金はどんどん出ていく一方で、売上は思ったほど上がらないというのがほとんどの場合の現実です。原則通り300万円の資本金がある場合でさえ、開業後半年もすると資本金はあらかた底をついていることが少なくありません。

 資本金が少ないということは、取引上もマイナスになることがあります。ありていに言えば、「信用度が低い」のです。銀行はお金を貸してくれない、仕入先は掛け売りに応じない、大きな仕事は任せてもらえない、といった具合です。
 「会社でないと(しかも株式でないと)信用がない」とはよく耳にすることですが、あくまで資本金が正規の額を満たしている場合の話です。組織上だけいくら株式会社になったところで自動的に信用が付くわけではありません。

 また、会社を設立したら常に念頭に置いておかなければならないのが、特例の有効期限である5年後のことです。5年たった時点で最低資本金をクリアできなければ組織変更や解散を余儀なくされるわけですから、そのための資金を着実に貯めていかなければなりません。
 最低資本金に足りない金額を増資する際に一番多いパターンは、代表者および役員たちによる個人出資であろうと思われます。
 創業時に手持ちの資金が無かった(あるいはほとんど吐き出してしまった)人たちが5年間で資金を貯めるには、新しくできた会社から十分な給料(役員報酬)をもらう必要があります。例えば1円で有限会社を設立した場合で、代表者が1人で目標額300万円を貯めるには、1年で60万、1ヶ月当たり5万円ずつ貯金していかなければなりません。(当然の事ながら、税金や保険料、生活費等を差し引いた上でのことです)
 よく、創業間もない会社では利益が出なくて社長の給料はゼロ、あるいはゼロとまでは行かないが従業員よりも低い…などという状況を見かけますが、こういう状態ではとても貯金どころではありません。
 「儲けはトントン」などと悠長なことは言っていられないのです。

 新聞報道等によれば、特例施行以来これを利用して既にいくつもの会社が設立されています。理論上は資本金1円でも会社が設立できるようになったとはいえ、実際に1円で設立するのはまれで、30万円〜100万円程度が多いようです。現実に1円の元手で事業が始められるはずもなく、1円設立というのはおそらく「本当に設立できるんだ」ということを試すとか洒落のような意味合い、あるいは自分自身に発破を掛ける決意の表れであろうと思われます。多くの人たちは自分の事業に必要な金額を試算した上で現実的な金額を用意しているはずです。

※法人を設立するには資本金とは別に設立費用がかかります。公証人役場での定款認証費用や法務局での登記印紙代等、株式会社で30万円、有限会社でも20万円近くはかかります。手続きを司法書士等に依頼した場合はその手数料もかかることになります。

 もちろん、制度の利用を頭から否定するわけではありません。以上のことを踏まえた上で、綿密な利益計画のもと、行動を起こされることをお勧めします。


※掲載記事は掲載日現在の法令等に基づくものです。その後の制度の廃止・変更等には対応していませんので、ご注意ください。


【加筆】2006年5月1日の会社法施行により、資本金規制が無くなりました。これにともない、確認会社の根拠となっていた最低資本金規制特例制度が廃止となり、5年以内に最低資本金以上の増資をおこなう義務も経済産業大臣への毎年の計算書類提出義務も無くなりました。
 ただし、確認会社の定款には「設立から5年以内に資本金を1千万円(有限会社は3百万円)に増資できなかった場合は解散する」と定められていますから、この文言を削除する必要があります(登記事項であるため、変更登記も必要)。
 なお、会社法施行と同時に有限会社法の廃止により有限会社の新規設立はできなくなりましたが、既存の有限会社は“特例有限会社”として存続します。